アトピー【atopy】
*アサヒリプル=岩手県内で朝日新聞の読者を対象に発行されている女性向け情報誌 |
辞書には、「先天的過敏性。この体質の人はぜん息や枯草熱、アレルギー性鼻炎にかかりやすく、気温の変化や精神緊張によって自律神経や内分泌に異常を生じるといわれる。またアトピー性皮膚炎にかかることもある。」と説明されています。
アトピー性皮膚炎のお子さんをお持ちのご家庭では、たいへん悩んでいらっしゃる方が多いと思います。「アサヒリプル」の協力でアトピーの特集記事を掲載致します。
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・アトピ関連の著書も多い、星の丘クリニックの岡部先生。「ゆったりとした気持ちになるとアトピーは次第によくなっていきます。焦らないでください」。 |
特集 アトピーと私たちの暮らし
アトピーが教えてくれた、暮らしのこと。
家族の在り方。
ある報告によると、現代の子どもの3人に一人はアトピーだといわれています。その症状を引き起こす原因は食物だったり生活環境であったり、また体質と関係があるとも言われ、なかなかなか治らない病気というのが一般的な認識です。でも自分が、あるいは家族がアトピーになった場合、何も知らないでは済まされません。治療に取り組む人々、そしてアトピーと向き合う家族の声を聞きながら、みんなでこの病気について考えたいと思います。
石鳥谷町の「星の丘クリニック」には、県外からも多くのアトピー患者が訪れます。院長である岡部俊一先生と、臨床心理士として患者の心のケアを行っている青山正紀さんからお話をうかがいました。
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・星の丘クリニック内にある温泉は肌が滑らかになるアルカリ性単純泉。 |
アトピーは特別な病気じゃない
今や「アトピー」という言葉を聞いたことのない人はいないのではないでしょうか。実際テレビや新聞でひんぱんに目や耳にするし、書店には関連本がずらりと並んでいます。にも関わらず「赤ちゃんや子どもの病気」「親からの遺伝」「一生治らない」といったあいまいな情報のみが誇張され、本来アトピーがどういう病気なのかは一般的にほとんど理解されていないのが現実です。
確かに、アトピー性皮膚炎の患者さんは家族にも気管支喘息やアレルギー性鼻炎など『アレルギー素因』がある場合が多いのは事実です。しかし岡部先生は「原因はひとつではない」と言います。たとえば疲労の蓄積や食生活の乱れや運動不足といった不規則なライフスタイル、住環境・生活環境・地球環境の悪化、そしてストレス。こういった生活態度や環境が引き金となってアトピーになるケースもあるそうですが…ここで、気が付きませんか? そう、アトピーには糖尿病や高血圧など「生活習慣病」といわれる病気の発症要因と共通する点がかなり多いのです。
かつてアトピーは乳幼児期に発病し、ほとんどは幼児期か学童期までには治る病気でしたが、現在は成人の患者が増えています。その原因にもこれら二次的な要因が関係しているのは充分考えられること。だとすれば、現代人は誰もがアトピーになる可能性を持っていることになります。
「アレルギー症状が皮膚に現われてくるのがアトピーですが、鼻に出れば花粉症だし、胸なら喘息になります。結局、アトピーは『皮膚の生活習慣病』なんですね」。 |
・爪がマニキュアを塗ったように光っているのは、掻くことによって磨かれるせい。アトピー患者さんの特徴。
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病気はたくさんのことを教えてくれる
アトピーは辛い病気です。掻くことは皮膚炎の慢性化を招き重症化・難治化につながっていくし、皮膚の変化や周囲の理解や協力を得られないことで気持ちも沈みがちになります。もちろん家族にも大きなストレスがかかります。
そんな患者と家族を数多く診てきた岡部先生は「だからアトピーはトータルでみていくことが大切」と言います。身体だけではなく心も支えてあげる。そして本人だけではなく家族も一緒にアトピーと向き合い考えていくことが重要です。特に小学生位までの子どもは母親の影響が大きいため、まず母親を 治す ことが必要なのだとか。「大部分の母親は、子どもへ責任感を感じるあまり過保護や過干渉になっていきます。また親の不安やイライラが子どもに伝わり、掻く行為に現われて回復を長引かせる原因になっています。ここにお母さんが気付くと症状もよくなっていきます」
それがアトピーの不思議なところなんですよ、と岡部先生は言いました。
病気は悪いものである―誰もがそう考えます。「でも病気になって心身のバランスを理解し、他人の辛い気持ちもわかるようになる。病気で気付くことは一杯あるんですよ」と岡部先生。病気にならない人間はいない、むしろ今は「一病息災」の方が長生きできるのではと言います。
「夜更かしで花粉症が悪化したり風邪を引くというのは、身体からの『休養しなさい』というメッセージです。ここ10年ほどで急激に増えたアトピーには環境汚染や食品添加物の影響が大きいと思いますが、これは人間への『警告』なのかもしれません…」
アトピーは個人の病気ではなく社会全体の問題として捕えていくべき。先生はそう考えています。 |
・臨床心理士の青山さん。「一見異質に見えますが、皮膚と心は深いつながりがあります」。
この5月に開設された青山さんのホームページ「アトピーと心の癒し ほしくず亭」。
http://www.top.or.jp/~aonori/ |
身体と心のバランスを取り戻す手助けに
青山さんは、現在中学1年生の息子さんが生後間もなくの頃アトピーと診断されました。そして多くのアトピー患者やその家族と同様に、良いといわれる方法は手当り次第試したそうです。
そんな暗中模索の日々の中、青山さんはアトピーをめぐってどのような現象が起きているのかを知り、患者や家族には身体だけではなく心理的な援助も必要と思い始めました。「今の病院は、臓器別や疾患別といった具合にどんどん細分化されています。そのメリットは確かにありますが、数値だけで病気の全体像は見えてこない。むしろ患者個々の生き方、心の在り方をトータルにみていくという、心身医学の立場でアトピーに関わっていくことが大切ではないのでしょうか」
当時青山さんは精神科の病院で働いていましたが、そのような思いが星の丘クリニックに転職する動機のひとつになったとか。現在は患者が自分の気持ちを表現したり、心身をコントロールできるように促す援助を行っています。また、個人的にアトピー患者と家族へ向けたホームページやメールマガジンも発信しています。「ホームページは趣味(笑)。でも僕自身が患者との関わりの中で吸収したものをフィードバックしているつもりです。病院へはアトピーだけではなく不登校や摂食障害に悩む方も来ますが、トータルな治療法のひとつとして取り組んでいきたいですね」。
取材・撮影協力/星の丘クリニック 0198〈46〉1010
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アトピーで私も子どもも成長しました。盛岡市・Yさん
長男が軽いアトピーだったので、長女の時もさほど心配はしなかったんです。でも2歳の時、突然娘の目の下が赤く腫れてその後色々な症状が出て来ました。通っていた病院は転勤と共に変わり、混雑している病院ほど医師は親のほうに質問するんです。だから、限られた時間ですべて伝えなくてはと私が一人で喋っていました。「とにかく私がちゃんとやらなきゃ」という脅迫観念でしたね。でも症状が悪化し、星の丘クリニックに行き、岡部先生から「アトピーは親の過保護が原因だ」と言われた時は、努力を否定されたようで正直「ガーン!」でしたね。でもそれをきっかけに、私も娘も変わろうと思ったんです。娘は今高校3年生ですが、ごくたまに症状が出た時でもうまく対処できるようになってきました。アトピーで親娘ともに辛い思いをしてきましたが、これからも長いつきあいですし、病気から学んだことも多くお互いに成長したように思います。アトピーに限りませんが、子どもにとって家は唯一「弱音を吐ける場所」であるべきと思います。そのためには、親自身悩みを打ち明けられる仲間や友人を持つことと、なにより家族の協力が大事だと思います。 |